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東京地方裁判所 平成8年(ワ)15112号 判決 2000年9月28日

原告

△△工業株式会社

右代表者代表取締役

甲野太郎

原告

株式会社○○

右代表者代表取締役

乙川次郎

右両名訴訟代理人弁護士

河合弘之

竹内康二

清水三七雄

河野弘香

市村隆行

本山信二郎

船橋茂紀

松井清隆

土井久

泊昌之

松村昌人

被告

株式会社××

右代表者代表取締役

丙山一郎

被告

丙山一郎

丁田二郎

右三名訴訟代理人弁護士

川嶋義彦

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告らは、原告△△工業株式会社に対し、連帯して七〇〇〇万円及びこれに対する平成八年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告株式会社○○に対し、連帯して三〇〇〇万円及びこれに対する平成八年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

原告らは、医療用機械器具の輸入等を目的とする会社である。被告丙山及び同丁田は、原告両会社の元従業員であり、被告株式会社××は、原告両会社からの退職後被告丙山及び同丁田が設立した株式会社である。本件において、原告らは、被告丙山及び同丁田は原告両会社が輸入・販売する医療器具に関する営業秘密を在職中不正に取得し、退職後、被告会社において右営業秘密を使用して同じ医療器具を輸入し、販売していると主張して、被告らに対し、不正競争防止法二条一項四号、五号等に基づく損害賠償を求めている。

一  当事者間に争いのない事実等(証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。)

1(当事者等)

(一)  原告△△工業株式会社(以下「原告△△」という。)は、医療用機械器具及び医薬品の輸出入等を目的とする会社であり、原告株式会社○○(以下「原告○○」という。)は、原告△△の子会社である。

(二)  被告丙山一郎は、昭和五一年三月二二日から平成七年三月三一日まで原告△△に勤務し、同年四月一日から同年一〇月二〇日まで原告○○に勤務していた。

(三)  被告丁田二郎は、昭和五五年四月一日から平成七年三月三一日まで原告△△に勤務し、同年四月一日から同年一〇月二〇日まで原告○○に勤務していた。

(四)  被告株式会社××(以下「被告××」という。)は、介護用品、健康器具の輸出入及び販売等を目的として平成七年一一月七日に設立された株式会社であり、会社設立以来、被告丙山はその代表取締役、被告丁田はその取締役の職にある。

(五)  株式会社□□(以下「□□」という。)は、医療用機械器具の販売等を目的として平成八年三月一九日に設立された株式会社である。A'(以下「A」という。)は、昭和四二年三月八日から平成八年二月二〇日までの間原告△△に勤務していたが、退職後右会社を設立し、その代表取締役に就任した。

2(プロスタカスの輸入等)

原告△△は、平成四年二月ころから前立腺肥大症患者のための医療用器具であるプロスタカスを輸入し、我が国において販売していた。

プロスタカスは、デンマーク法人であるX社が開発した医療用器具であり、当初は同社の委託により、デンマーク法人のY社が販売元(輸出業者)となっていたが、平成六年ころから、X社が直接の販売元となった(販売元の変更の時期につき乙三一)。

他方、日本の側でも、従前は原告△△がプロスタカスを輸入していたのが、平成七年六月二二日からは原告○○が輸入して、原告△△に卸す形態に変わった(輸入者の変更の日につき甲八九、九〇)。

3(被告丙山、同丁田とプロスタカスの関わり)

原告両会社に在職している間、被告丙山は輸入担当者として、被告丁田は技術担当者としてプロスタカスに関する内部情報に接する立場にあった(ただし、被告両名の具体的な役職名、職務内容については争いがある。)。

4(被告××とプロスタカスの関わり)

被告××は、平成八年八月八日、X社との間でプロスタカスに関し条件付の独占的販売契約を締結した(乙八)。

被告××は、その時から現在に至るまでX社からプロスタカスを輸入し、従来原告両会社から購入していた医療機関を含む顧客に対し、プロスタカスを販売している。なお、□□も被告××からプロスタカスを仕入れて顧客に販売している。

二  原告らの主張

1(営業秘密の内容)

(一)  原告両会社は、プロスタカスの輸入承認手続に必要な大阪市立大学のB'医師(以下「B医師」という。)作成の「尿道ステント32例の臨床成績について」と題する報告書(以下「治験データ」という。)、平成四年二月一日付けのプロスタカスの厚生大臣による輸入承認に係る医療用具輸入承認申請書及び添付の各別紙(以下「輸入申請書等」という。)並びにプロスタカスを使用する病院名等の記載された顧客リスト(以下「本件顧客名簿」という。)を保有していた(これらの情報をまとめて、以下「本件情報」という。)。

(二)  本件情報のうち、治験データと輸入申請書等は紙媒体及びこれらの情報を収めたフロッピーディスクの形で存在していた。そして、輸入申請書等の別紙部分には、①プロスタカスの形状、構造及び寸法、②原材料、成分及び分量、③性能、使用目的及び効能・効果、④操作方法、使用方法、⑤製造に関する情報などが記載されていた。

また、本件顧客名簿については、原告△△全体の売上実績等を集計した「プロスタカス使用実績表」に表される紙媒体及びその情報を収めたフロッピーディスク(以下「本件顧客名簿①」という。)、販売部福岡における売上実績を集計した「プロスタカス使用病院リスト」に表される紙媒体(以下「本件顧客名簿②」という。)並びに販売部大阪において関西圏の売上実績等を収集、更新、管理している顧客名簿たる紙媒体(以下「本件顧客名簿③」という。)の形で存在していた。

(三)  治験データ及び輸入申請書等は、輸入承認の要件として求められる使用成績調査の実施による情報であり、これがないと輸入承認が受けられず、又は取り消され、国内販売ができないという意味で有用性を有する。また、本件顧客名簿は、原告両会社が顧客を獲得するため多くの企業努力を払い費用を負担した結果、作成されたものであり、重要な価値を有する。

2(秘密としての管理)

(一)  原告両会社は、以下のとおり本件情報が企業秘密である旨を従業員に周知徹底し、厳重に秘密として管理していた。

(二)  まず、原告両会社は、それぞれ就業規則に秘密を外部に漏洩しない旨の規定を設けて、一般的に従業員に注意を喚起し、被告丙山、同丁田を含む従業員は、原告両会社に対して、就業規則及びその他の諸規則を遵守する旨の誓約書を提出していた。

本件情報のうち治験データ及び輸入承認書等の紙媒体とフロッピーディスクは鍵のかかる金庫内に厳重に保管されていた。このうち、輸入承認書等の添付書類は実際に商品が日本に到着した際の輸入手続に同一性確認のために必要となる場合がある。その場合でも、原本は金庫内に保管されており、税関の手続にはそのコピーを使用していた。なお、税関での手続が終了すると、コピーは会社に返還する扱いとなっており、現に返還されていた。

(三)  本件顧客名簿①のフロッピーディスクは収納ケース内に秘密として保管されていた。本件顧客名簿②は紙媒体であるが、元来販売部福岡においてフロッピーディスク内にその情報が収められているところ、そのフロッピーディスクは所長のC'(以下「C」という。)の監督の下で秘密として保管されていた。さらに、本件顧客名簿③は紙媒体であるが、販売部大阪及び原告△△本社において(ただし、本社においては本件顧客名簿①の元データとして)秘密として管理されていた。

3(被告らによる本件情報の不正取得―本件顧客名簿)

(一)  被告らは本件顧客名簿の重要性について十分認識しており、かつ本件秘密情報に接し得る重要な地位にあった。すなわち、被告丙山及び同丁田はプロスタカスを全国に販売した結果として形成される本件顧客名簿を輸入本数の管理のために情報として取得できる部署である輸入管理部に在籍しており、特にプロスタカスについては発注のため販売元と頻繁に折衝を行っていた。

そのため、被告丙山及び同丁田は、プロスタカスの事業を丸ごと原告両会社から奪取するためには、第一にプロスタカスの製造・販売元と原告両会社との関係を遮断して、これを自らが設立する新会社(被告××)に移転させること、第二に、プロスタカスの購入者に対し、独立後即時に売り込みをかけるために全国にわたってその販売先名簿を入手することの必要性を認識していた。

(二)  被告丙山は、平成七年三月三一日まで原告△△の輸入部係長として、同年四月一日から一〇月二〇日までは原告○○の輸入管理者として勤務しており、本社販売部、販売部大阪、販売部広島及び販売部福岡からのプロスタカス売上げに関する情報(売上先医療機関、売上本数等)について、輸入部の実務責任者として報告を受け、プロスタカスの顧客名簿(本件顧客名簿①)を作成、更新、管理していたところ、被告丁田と共謀の上、退職する際の同年一〇月ころ本件顧客名簿①をフロッピーディスクの磁気情報を複製する方法及び出力済みの紙媒体を持ち去る方法により原告両会社の承諾なく取得した。

被告丙山と原告△△の西日本担当販売部長であったAは、平成七年一一月末ころ同年一二月初旬にかけて、主としてAが中心となって原告△△販売部福岡のC所長に電話をかけ、九州八県のプロスタカスの売上先病院名、病院所在地、担当医師名等が記入された原告両会社の管理にかかる顧客名簿(本件顧客名簿②)を指定先の原告△△の販売部大阪にファックスで送信させて不正にこれを取得した。

さらに、被告丙山は、Aが販売部大阪において作成、更新、管理している顧客名簿(本件顧客名簿③)を紙媒体の複写の方法により、Aが取得したのを受けて、Aから原告両会社の承諾なくして取得した。

なお、被告××は、被告丙山を代表者とする会社であり、同被告の不正取得と同時に法的に本件顧客名簿①ないし③の不正取得に至ったものである。

(三)  被告丁田は、平成七年三月三一日まで原告△△の輸入部主任技術員として、同年四月一日から一〇月二〇日までは原告○○の技術担当係長として勤務しており、本社販売部のプロスタカス売上げのため、医療機関に実際に赴いて取扱説明を行うなどして、原告△△の販売部のプロスタカスの売上げに関する情報を管理、報告していた。被告丁田は、被告丙山と共謀の上、原告△△の輸入部の管理する顧客名簿(本件顧客名簿①)をフロッピーディスクの磁気情報を複製する方法及び出力済みの紙媒体を持ち去る方法により原告両会社の承諾なく取得した。

また、被告丁田とAは、平成七年一一月末ころ同年一二月初旬にかけて、主としてAが中心となって原告△△販売部福岡のC所長に電話をかけ、九州八県のプロスタカスの売上先病院名、病院所在地、担当医師名等が記入され原告両会社の管理にかかる顧客名簿(本件顧客名簿②)を指定先の原告△△の販売部大阪にファックスで送信させて不正にこれを取得した。

さらに、被告丁田は、Aが販売部大阪において作成、更新、管理している顧客名簿(本件顧客名簿③)を紙媒体の複写の方法により、Aが取得したのを受けて、Aから原告両会社の承諾なくして取得した。

4(被告らによる本件情報の不正取得―輸入承認書等ほか)

(一)  被告丙山は、平成七年一〇月ころ、原告○○において係長としてプロスタカスの輸入・販売業務、使用病院における医師に対する技術的説明・助言を行い、職務上プロスタカスの輸入承認申請書等を頻繁に使用する機会を有していたが、原告両会社の業務に使用するのではなく、自己が利益を取得する目的で、原告両会社が管理する輸入承認書等及び治験データの収められたフロッピーディスクを持ち出す方法及び写しを作成する方法によりこれらを不正に取得した。被告××は、被告丙山を代表者とする会社であり、被告丙山の不正取得と同時に法的に不正取得に至った。

(二)  被告丁田は、平成七年一〇月ころ、原告○○において主任技術者としてプロスタカスの輸入・販売業務、使用病院における医師に対する技術的説明・助言を行い、職務上プロスタカスの輸入承認申請書等を頻繁に使用する機会を有していたが、原告両会社の業務に使用するのではなく、自己が利益を取得する目的で、原告両会社が管理する輸入承認書等及び治験データの収められたフロッピーディスクを持ち出す方法及び写しを作成する方法によりこれらを不正に取得した。

5(仕入れの不当削減によるX社との取引妨害)

(一)  被告丙山及び同丁田は、プロスタカスの事業を丸ごと原告両会社から奪取するためには、第一にプロスタカスの製造・販売元と原告両会社との関係を遮断して、これを被告××に移転させること、第二に、プロスタカスの購入者に対し、独立後即時に売り込みをかけるために全国にわたってその販売先名簿を入手することの必要性を認識していた。そこで、被告丙山及び同丁田は、前述のとおり本件顧客名簿の不正取得を行うとともに、仕入れの不正削減工作を行うことにより、プロスタカスの製造・販売元と原告両会社との関係を遮断することを計画し、実行した。

すなわち、平成七年下半期から平成八年上半期にかけて原告○○のX社からのプロスタカスの仕入れは、七五パーセントも減少している。この時期の売上げ自体はそれほど落ち込みがないが、仕入れのみが著しく減少している。この間、原告○○とX社との間のプロスタカスの供給契約の当事者は被告丙山とAであり、両名が在庫調整に名を借りて将来右契約を破棄させて、被告××とX社との間で新しい契約を締結させるよう下準備を行っていた可能性が高い。

(二)  被告丙山が被告××を設立したのは平成七年一一月七日であり、被告丙山が原告○○とX社との間のプロスタカスの供給契約を破棄させる意図を持ってX社に接触を図ったのは同年一一月末ころであり、Aが□□を設立したのは平成八年三月一九日である。今回、被告××は、関西以西の商圏については□□をして販売に当たらせており、被告らとAないし□□との間には共同して原告両会社との不当競合行為を行う意思が認められる。このような事実に鑑みると、被告丙山及びAは、あえて原告○○のX社からの仕入れを減少させて、被告丙山の出奔後も平成八年二月二〇日まで原告△△に残ったAをして在庫の不当減少工作を続けさせて、被告××とX社との新契約を締結させるための環境作りを行っていたものであるが、これらの行為は不法行為に該当する。

6(顧客等に対する不当干渉)

(一)  被告らは、平成八年八月ころ、東京にあるa病院(泌尿器科のD医師)を訪問してプロスタカスの販売の申入れをしたほか、同じころ、□□を通じて、当時b大学の泌尿器科に所属し、プロスタカスの日本への輸入承認の際に治験を担当したB医師に働きかけて、大阪地区における原告両会社の販売先に対してプロスタカスの販売の話を持ちかけた。また、被告丙山及び被告××は、本件顧客名簿に記載されているf病院について原告両会社に勤務時に知り合ったことを利用しようと企図して、原告両会社のプロスタカスの顧客であることを知りながら、プロスタカスの販売の話を持ちかけた。同様に、本件顧客名簿に記載されている都立c病院、d病院、e株式会社に対しても、原告両会社のプロスタカスの顧客であることを知りながら、プロスタカスの販売の話を持ちかけた。また、係争中であることを知りながら、九州の代理店等にX社が原告○○に宛てたファックスの翻訳文(甲八七)を配布し、医療機関に対して原告両会社によるプロスタカスの販売ができない旨の虚偽の噂を広げさせたが、右行為は不法行為に該当する。

(二)  被告丙山は、平成七年一二月ころ、原告両会社がX社との間で日本におけるプロスタカスの輸入・販売を独占的に行っていることを知りながら、同社に働きかけて被告××がプロスタカスを独占的に輸入・販売する準備を行い、最終的には平成八年七月ころプロスタカスの輸入・販売契約を締結して、そのころ、プロスタカスの販売を独占的に取り扱う旨を原告両会社の販売代理店(長崎のe、静岡のgなど)に連絡したが、右行為は不法行為に該当する。

7(被告らによるその他の不当競合行為)

被告丙山及び同丁田は、原告両会社の顧客を根こそぎ奪うために、原告両会社の価格設定を熟知していたことを奇貨として、以下のとおり意図的な価格を設定した見積書を出して原告両会社の顧客を奪取するための活動を行った。すなわち、被告××は、各医療機関への卸しとして影響力の強いe株式会社に対して、平成八年八月一二日見積書を送付している。この見積書に記載された割引残率は77.5パーセントであるが、これは原告△△の割引残率を若干下回る価格設定であり、原告△△の割引残率を了知している被告丙山及び同丁田の計画的価格設定にほかならず、右行為は不法行為に該当する。

8(□□及びAを通じた不当競合行為)

(一)  被告らは、□□及びAを通じて、原告両会社の顧客先に対して働きかけ、□□を通して医療用器具の修理を行わせるように仕向けたが、右行為は不法行為に該当する。

(二)  被告らは、□□及びAを通じて、h株式会社に対し積極的な売り込みを図っている。この会社は従来原告△△が多数回接待を行っている先であり、被告らは、従来原告△△が接待し、受注を受けていた顧客に対しても、□□名での引き抜きを図っているのである。

(三)  被告らは、平成八年八月ころ、□□及びAを通じて、B医師に働きかけ、大阪地区における原告両会社の販売先に対して自己の利益を図る目的でプロスタカスの販売の話を持ちかけたが、右行為は不法行為に該当する。

9(原告らの損害と被告らの行為との因果関係)

被告丙山及び同丁田による本件情報の不正取得及び開示並びに被告××による本件情報の不正取得、さらにはX社に働きかけをする等の不法行為に該当する不当競合行為の結果、原告らは国内の顧客を奪われ、売上げが減少する等の損害を被っている。

10(原告らの損害の発生)

(一)  原告両会社では、プロスタカスについて、

平成 五年  九八八本

平成 六年  七一〇本

平成 七年  七〇六本

の売上げを達成していた。しかるに、被告らの不正競争行為ないし不当競合行為が開始した平成八年中ごろから急速に売上げが減少し、

平成 八年  四六八本(同年八月に本訴提起)

平成 九年  二九七本

平成一〇年  二五三本

平成一一年   九六本

となった。このように本訴係属中も被告らの不正競争行為ないし不当競合行為により原告らは甚大な損害を被ったものであり、これは被告らにより賠償されなければならない。

(二)  被告××は、被告丙山及び同丁田の個人営業というべき人員規模の会社であるにもかかわらず、その売上げは原告両会社を上回っている。これは通常の営業形態では達成できないものであり、被告らの不当競合行為により得た利益にほかならない。したがって、被告らはプロスタカスの売上げによって得た利益を原告らに賠償しなければならない。

具体的には、株式会社メディコン作成の「尿管ステント、輸・排尿用ステント、後部尿道ステント 数量及び加重平均価格調査結果」と題する書面(甲七八)は、泌尿関連製品を取り扱う各社の販売数量を集計した資料であるが、その表で分類番号「2」、分類項目「その他の金属尿道ステント」が本件で問題となっているプロスタカスのことである。これをみると、平成一〇年一〇月一日から平成一一年三月三一日までの半年間において、被告××の売上げは原告○○の二倍以上であることがわかる(同表で「A社」と記載されているのが原告○○、「B社」と記載されているのが被告××である。)。すなわち、右期間内の被告××の売上本数は二七八本、売上げは五五六〇万円となっている。これを一年間当たりの売上げに引き直すと、売上本数は五五六本、売上げは一億一一二〇万円となる。

(三)  被告らが、プロスタカスの販売を開始して、原告両会社に対する不当競合行為を開始したのは、被告××が平成八年六月一〇日に輸入販売業の許可を受けて、同月一四日にプロスタカスの輸入許可を受け販売を開始したことに照らせば、平成八年六月ころということになる。被告××は地道に一から顧客を開拓したわけではなく、原告両会社の保有していた本件顧客名簿を使用したのであるから、売上本数が徐々に増えたとは考えにくく、当初から右売上げを達成していたことが推察される。したがって、平成一二年六月までの期間において、被告××はプロスタカス単独で、

・売上本数  二二二四本

・売上げ   四億四四八〇円

を達成していることになる。したがって、被告らは右四億四四八〇円の売上高に対応する利益全額を原告らに引き渡さなければならない。プロスタカス一本当たりの輸入単価は一本当たり四万円であり、定価二〇万円に対する利益率は八〇パーセントということになるから、被告らは、少なくとも、三億五五八四万円の損害賠償責任を負担している。

11(まとめ)

よって、原告らは、被告丙山及び同丁田に対し、不正競争防止法二条一項四号、民法七〇九条(第三者による債権侵害)、同四一五条(秘密を不当に利用しない信義則上の義務違反)に基づき、被告××に対し、不正競争防止法二条一項五号、民法七〇九条に基づき、右10記載のとおり損害賠償請求権を有するところ、一部請求として、前記第一(原告らの請求)記載のとおり請求する。

三  被告らの反論

1(営業秘密性)

本件情報を原告両会社らが保有していたこと、本件情報のうち治験データ及び輸入承認書等が原告△△の輸入承認手続に必要であったことは認めるが、被告らにとって必要であったことは否認する。一般に、既承認品と同等の製品を輸入する場合には臨床試験の成績に関する治験データは不要であり、被告××についても、その輸入承認申請に治験データの添付は要求されていない。治験データは原告△△の輸入承認申請手続でその役目を果たし終えたもので、将来の使用、利用は全く見込まれていない。

また、輸入承認書等の別紙部分は、商品の形状ないし製造等に関する情報であって、その大半が各種パンフレット、取扱説明書の形で一般に配布されているのが実情である。仮に秘密部分があるとしても、被告××も、別途メーカーから商品の形状ないし製造等に関する情報の開示を受けている。

本件顧客名簿に記載されている病院名、電話番号、担当医師程度の情報では顧客の開拓に大して役に立つものではない。その程度の情報なら、公刊されている病院名簿等により容易に入手できるし、被告らは現にそうしていた。

本件情報の管理はずさんであり、原告らが主張するような厳重な管理はされていなかった。すなわち、被告丙山及び同丁田が在職していた当時、本件情報にアクセスできる人間が限定されていたこともなく、アクセスするために特別の手続が必要とされたこともなく、アクセスに際して原告両会社から特別の指示も義務も課せられることもなく、これが営業秘密であると認識できるような措置も全く採られていなかった。当時の原告両会社において営業秘密の管理態勢が確立していなかったことは明らかである。

2(被告らの不正競争行為等)

被告らが本件顧客名簿を不正に取得したこと、これを利用してプロスタカスの販売をしたとの主張は、否認する。原告△△販売部福岡営業所長のCが関わるという本件顧客名簿②のファックスでの送付に、被告丙山及び同丁田が関与したこともない。

被告らが治験データ及び輸入申請書等の収められたフロッピーディスク及びその紙媒体を不正に取得したとの主張は、否認する。原告らの主張は単なる憶測にすぎない。そもそも、被告丙山及び同丁田が、プロスタカスの輸入承認申請書等を頻繁に使用したことはないし、輸入申請書等の添付資料については、無事に輸入承認を得た後にその写しが使用されることは考えられず、原告らの主張は前提を欠いている。

プロスタカスの輸入販売の経緯に関しては、原告らが輸入販売の独占権を有していた点を除きおおむね認める。プロスタカスについては他にこれを輸入する業者がいなかったため独占的な輸入販売の外観を呈していたにすぎず、原告らが法的な意味での独占的輸入販売契約を締結した事実はない。

病院や医師に対する働きかけの事実は認めるが、自由競争下での正当な営業活動である。

被告××が被告丙山から不正に取得した本件情報を取得したこと、被告××の輸入承認申請に際し、不正に取得した輸入申請書等の添付資料が用いられたこと、被告らが不正に所得した本件顧客名簿を用いて原告らの顧客を勧誘したとの主張は、否認する。被告××は、病院名簿や知り合いの紹介等により知った病院や医師にプロスタカスの購入を勧誘したものである。

3(原告らの損害と被告らの行為との因果関係)

被告らの不正競争及び債権侵害の結果、原告らが損害を受けたことは、否認する。なお、原告らの売上げの減少は被告××の参入前からのことであり、同被告と原告らの売上げの減少とは関係がない。

4(原告らの損害の発生)

原告らの主張するプロスタカスの販売数量の推移、営業利益は、知らない。原告らに損害が発生したこと、損害額の計算については争う。

四  争点

1  本件情報は、不正競争防止法二条四項にいう「営業秘密」に当たるか。殊に、原告両会社により秘密として管理されていたか。

2  被告丙山、同丁田は本件情報を不正の手段により取得したか。

3  原告らの主張するその他の不当競合行為が認められるか。

4  原告らの損害

第三  当裁判所の判断

一  争点1(営業秘密性)について

1  証拠(甲四〇、四九、五〇、六〇、六九、七六、七七、証人H、同C、原告○○代表者、被告丙山、同丁田)によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件情報のうち、治験データ及び輸入申請書等の紙媒体は、原告○○の本店建物四階の四段重ねの引出し式のキャビネットの中に保管されていた。このキャビネットには四段全部の引出しを施錠する錠が付いていたが、勤務時間中は施錠されていなかった。各キャビネットには「未承認品目・新製品」といったように収納されている書類の分類を記載したラベルが貼られていたが、一部の書類に「マル秘」など秘密として管理されていることを示す表示を付するような取扱いはされていなかった。

プロスタカスの輸入申請書の書式等の収められたフロッピーディスクは被告丁田が他のフロッピーディスクとともに保管していたが、その保管上、当該フロッピーディスクを取り扱うことができる社員を限定するなどの特段の措置は採られていなかった(なお、治験データの収められたフロッピーディスクについては、これを原告両会社が管理していたことを認めるに足りる証拠はない。)。

(二)  本件顧客名簿のうち、本件顧客名簿①は、原告△△の全国の営業部及び本店の売上実績等の資料をもとに輸入部輸入課(平成七年四月一日以降は原告○○の輸入事務部門)のE'(以下「E」という。)がワープロで作成していたが、右情報はフロッピーディスクに保存され、随時更新されていた。被告丙山は、Eから本件顧客名簿①の紙媒体を受けとって、事務机の上に他社の製品のカタログと一緒に積み重ねて置いていた。なお、右フロッピーディスクは、Eが保管していた。

本件顧客名簿②は、原告△△の販売部福岡において所長のCの指示のもと専任の担当者がフロッピーディスク内の磁気情報として管理し、必要に応じてディスプレイに表示したり、プリントアウトしたりしていた。具体的には、フロッピーディスクを保管するキャビネットが決まっており、必要なときにキャビネットを開錠してフロッピーディスクを取り出し、パソコン上で閲覧、編集等を行った後に、再びキャビネットにフロッピーディスクを収納し、施錠するという管理態勢をとっていた。キャビネットの鍵は担当者一名のみ(平成七年当時はF)が保管し、他の者が勝手にフロッピーディスクにアクセスできないようになっていた。また、フロッピーディスクに収められた本件顧客名簿②をプリントアウトするには所長のCの許可が必要とされており、紙媒体の形の本件顧客名簿②には「マル秘」の表示がされていた。

本件顧客名簿③については、ワープロで作成され、プリントアウトされた紙媒体は、販売部大阪ビル二階のキャビネットにファイルされた上で収納されていた。右キャビネットの鍵は担当者一名のみ(平成七年当時はG)が保管していた。本件顧客名簿③のプリントアウトされた紙媒体には「マル秘」など秘密として管理されていることを示す表示を付するような取扱いはされていなかった。

2 不正競争防止法二条四項の「秘密として管理されている」といえるためには、①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや、②当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要であるところ、右認定の事実によれば、本件顧客名簿②を除く本件情報については、右の意味において秘密として管理されていたといえないことは明らかである。

この点に関して、原告○○の代表者である乙川次郎の陳述書(甲五三)及び原告△△の総務部長であったHの陳述書(甲五四)には、原告両会社において右の情報が厳重に秘密として管理されていたという趣旨の記載があるが、被告丙山、同丁田の供述及び同人らの陳述書の記載(乙三一、三三)に照らし、措信できない。また、乙川の陳述書には、原告△△の輸入部において各種の書類を収めたフロッピーディスクが約六〇枚あったところ、被告丙山、同丁田の退職後、輸入承認書の書式等の入ったフロッピーディスクを含む五〇枚のディスクがなくなっていたという趣旨の記載があるが、当初のフロッピーディスクの枚数を直接確認していないことは乙川も自認するところである上に、最初からフロッピーディスクは一〇枚程度しかなく、必要のなくなった文書は順次削除していたためフロッピーディスクの枚数が増えることはなかった旨の被告丁田の供述に照らして、措信できない。

3  右に加えて、治験データについては、証拠(乙一〇、被告丙山)によれば、原告△△がプロスタカスの輸入承認を得ている以上、被告××によるプロスタカスの輸入承認手続には再度の治験は不要とされていることが認められるから、被告××にとっては本来必要のない情報であったということができる。また、輸入申請書等についても、証拠(甲五、乙一二ないし一四、三三、被告丁田)によれば、その別紙部分の情報のうち、医療器具の形状、使用目的、操作方法等については、パンフレットや取扱説明書の形で配布されていること、現に被告××のプロスタカスの輸入承認申請に際して、被告丁田はX杜の取扱説明書、原告△△のカタログ、講習会の資料等をもとに輸入承認申請書の別紙部分を作成したことが認められ、既に公知な情報という点で秘密性に欠けるものと言わざるを得ない。さらに、仮に、輸入承認申請書等の別紙に秘密に当たる情報があるとしても、もともとはプロスタカスの供給元であるX社が保有していたものであるし、かつ被告××とX社との間にはプロスタカスの独占的販売契約があることから、輸入承認申請に必要な資料については、右契約上の供給元の義務の履行として同社から被告××に提供されていたと認められる。したがって、輸入申請書等は、被告××との関係では、秘密性を欠く情報というべきである。

4  右の認定判断によれば、治験データ、輸入申請書等、本件顧客名簿①及び同③については、不正競争防止法二条四項にいう「営業秘密」に当たらないというべきである。

二  争点2(不正取得行為)について

1  治験データ、輸入申請書等及び本件顧客名簿①について

(一) 被告丙山及び同丁田がこれらの情報を不正に取得したことを認めるに足りる直接の証拠はなく、右被告両名はこの事実を否定する旨の供述をしている。前記のとおり、被告××にとっては、治験データは必要のない情報であり、輸入申請書等はX社から提供を受けることのできる情報であるから、これらを不正に取得する必要は存しないものであり、この点に関する右被告両名の右供述は、措信することができる。そこで、原告らの指摘する間接事実から、本件顧客名簿①の不正取得の事実を推認できるかについて判断する。

(二) 証拠(甲六一、七九、九四の1ないし7、九八、乙二七ないし二九、被告丙山、同丁田)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 被告××は、正社員三名、パート二名という人員構成であるが、そのプロスタカスの売上げは、

平成八年(七月から) 七九本(□□の在庫分を含む)

平成九年       一三四本

平成一〇年      二四七本

平成一一年(一一月まで)四三三本というように年々増加している。

(2) 他方、原告らのプロスタカスの売上げは、

平成八年       四六八本

平成九年       二九七本

平成一〇年      二五三本

平成一一年(六月まで) 九六本

と減少の傾向にある。

(3) 被告××の平成九年九月時点での取引先の名簿(乙二七)に記載されている二九の病院のうち、一四までが原告両会社の本件顧客名簿に記載されている。この中には、東京のf病院、都立c病院、千葉のd病院のように被告丙山、同丁田が原告両会社在職中に訪問したことのある病院も含まれている。

(三) 右認定の事実によれば、被告××は設立後二年余を経過したにすぎない平成一〇年の後半ころから急激にプロスタカスの売上げを伸ばしているところ、原告らは被告××がこのような短期間に売上げを伸ばすことができたのは、本件顧客名簿を不正に取得し、これを利用して営業活動を行ったためであると主張する。

しかし、被告丙山、同丁田は、顧客開拓の経緯につき、公刊されている関東病院名簿(乙二三、二四)の利用、日本泌尿器科学会等の機会を利用した展示等のPR活動、知人、友人の紹介といった方法によった旨供述しているところ、被告××の顧客と原告両会社の顧客とで共通する者には、泌尿器科を備えた当該地方における大規模な病院や被告丙山、同丁田が原告両会社在職中に自ら訪れた病院も含まれているものであるし、学会等の機会を利用したPR活動については、これを一部裏付ける資料(乙二六の6、7)があることから、同被告らの右供述には一応首肯できる点があり、また、被告丙山はプロスタカスの売り込みに当たり適切なサイズを決めるための器具や適切な留置位置を決めるための測定具を発明し、その発明につき被告××を出願人として特許出願をしている事実(乙二九、三〇により認められる。)に照らせば、このような被告らの営業努力によって売上げが急激に伸びたということも十分にあり得るから、被告××の売上げの急伸を直ちに本件顧客名簿の利用と結び付けることはできない。

(四) 以上によれば、被告××が短期間に売上げを伸ばしていること、同被告の顧客のかなりの部分が原告両会社の顧客と重なることを理由に、原告ら主張の本件情報の不正取得の事実を直ちに推認することはできない。

2  本件顧客名簿②について

証拠(甲四九、五〇、証人C)によれば、原告△△の販売部大阪の営業部長(大阪、広島担当)であったAは、平成七年一一月末か一二月初旬ころ、販売部福岡のC所長に対してプロスタカスの九州八県における売上先病院名及び担当医の氏名を教えるように指示したこと、Cは奇妙な指示であるとは思いながら、最終的には前記Fに命じて本件顧客名簿②をプリントさせ、A宛てにこれをファックスで送信したことが認められる。

しかしながら、本件全証拠によっても、Aと被告丙山又は丁田との通謀の事実、具体的には、AがCから取得した本件顧客名簿②を被告丙山らに送付したことを認めるに足りない。確かに、Cの陳述書(甲五〇)には「A氏が丙山氏の××に顧客名簿を流しているものと思われます。」という記載があるが、C自身が当法廷において証言するようにこれは単なる憶測を述べたものにすぎないし、□□が被告××から仕入れたプロスタカスを西日本を商圏として販売していることは被告丙山の供述により認められるが、そのことから直ちにAによる本件顧客名簿②送付の事実を推認することはできない。

3  本件顧客名簿③について

Aは原告△△販売部大阪の営業部長の職にあったことから、本件顧客名簿③が存在すること、この情報が原告△△にとってどのような意味を持つかについては認識していたものと推認することができる。しかし、右の事実以上にAと本件顧客名簿③との関わりを示す証拠はなく、本件全証拠によっても、Aがこれを不正に取得したことを認めるに足りない。

4  以上の認定判断によれば、原告らの請求のうち被告らによる営業秘密の不正取得を理由とするものは、いずれも理由がない。

三  争点3(原告ら主張のその他の不当競合行為)について

1「仕入れの不当削減」について

原告らは、被告丙山及び同丁田はプロスタカスの供給契約の担当者であることを利用してX社に働きかけて仕入れを減少させ、退職後はAをして在庫減少の工作をさせた旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、被告丙山の供述によれば、同被告は原告△△に在職中、プロスタカスの発注本数を決める権限を有さず、営業部長のI(ただし、平成七年四月以降はJ)の具体的な指示に基づいてX社に対しプロスタカスの注文を出していたことが認められる。

2「顧客等に対する不当干渉」について

被告らが、もともと原告両会社の顧客であった病院等にプロスタカスの売り込みをしていることは当事者間に争いがないが、証拠(乙二六の1、二八、被告丙山、同丁田)によれば、被告丙山、同丁田による各顧客に対するプロスタカス購入の勧誘は、一日に一か所メインの病院とその近隣の病院を訪問することから始まり、感触のよかった病院に対しては二度三度と訪問を重ね資料や手術手技のビデオを手渡すなどの地道な営業活動をし、成約後も、同被告らは、プロスタカスの挿入施術に立ち会い、被告丙山の発明した前記器具を提供するなどのアフターサービスを行っていたことが認められる。このような被告丙山、同丁田のプロスタカスの売り込みの態様からすれば、同被告らの顧客である病院関係者に対する働きかけは正当な営業活動の範囲内のものと評価でき、何ら違法性を帯びるものではない。

また、証拠(甲八七、乙三一)によれば、被告丙山は取引先の業者に頼まれてX社が原告○○に宛てたファックスの翻訳文(甲八七)をこの業者に交付したことは認められるが、原告らの主張する、この文書を配布して原告両会社によるプロスタカスの供給ができない旨の噂を広げさせたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

次に、原告らのX社との間のプロスタカスの独占的販売契約に基づく地位の侵害という主張については、本件全証拠によっても、右独占的販売契約の存在を認めるに足りない。かえって、原告両会社とX社との間の契約については正式な契約書はないのに、被告××と同社との契約には代理店契約書(乙八)が存在し、かつ右契約書では被告××が独占的代理店であることが明記されているという事実、X社は、平成八年五月の時点で第二世代の製品であるメモカスにつき、原告○○に対し販売契約の話を持ちかけていないという事実、被告××がプロスタカスの輸入承認を得たことを知った前記Iは被告丙山に電話をかけ「おめでとう」と述べたという事実によれば(乙八、一七、三一、原告○○代表者、被告丙山により認められる。)、原告両会社とX社との間のプロスタカスの供給契約は独占的販売契約ではなかったというべきである。

3「意図的な価格設定」について

証拠(甲四七、証人C、被告丙山)によれば、被告××は、平成八年八月一二日、e株式会社に対し、価格一五万五〇〇〇円(ただし消費税は別途)という内容のプロスタカスの見積書を出していること、それ以前は、原告△△は同社に一七万円でプロスタカスを販売していたことが認められるが、原告両会社とX社との間のプロスタカス供給契約が独占的販売契約ではなかったこと、被告××のプロスタカスの割引率が著しく不公正とまではいえないことからすれば、右の価格設定は自由競争の範囲内のものと認められ、意図的な価格設定を理由に不法行為の成立を認めるのは困難である。

4 □□及びAとの共謀について

本件全証拠によっても原告ら主張の各事実を認めるに足りないことは、前記二2と同様である。

5 右によれば、原告らが主張する営業秘密の不正取得以外の理由に基づく損害賠償請求も、理由がない。

四  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官・三村量一、裁判官・和久田道雄、裁判官・田中孝一)

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